前回、この欄で述べた安売りの様子でもない。その店の昼食時は、「ごはん、おかわり自由!」と入り口に大書きしてある。これは昨年の開店時からで、急に増えた要因ではない。
そのわけを店長に聞いてみると、「米屋にもうけさせているだけだ」を笑いながら、客の座るテーブルの上にある、ふりかけと味つけ海苔を指差した。客が自由に使えるように置いているのだ。それで、おかわりの回数が増えたのだそうだ。だが、それだけではない。客が客を連れてきて、客数も増えたらしい。そこのオーナーは三十年ほど前、本店の開店時に厨(ちゅう)房の責任者と一緒に、米に関することや他の飲食店の様子などを何度も聞きに来られた。
店の真ん中にかまどを備えて、白い湯気を上げる炊飯の様子を見せたり、店の前に「ただいまお釜(かま)のごはんがおいしくたき上がりました!」と白板に大書きするなどの工夫をしている。私の意見も取り入れて、この短期間に本店を含めて三店に増やされた。飲食店経営は素人だそうだが……。ちょっと前に発売された、京都の同業者と私を紹介したビデオは、テーマが「安さ以外の価値で勝つ!」だったが、価値の中身で客をひきつけるか、そうでないかが決まってしまう。このひとひねりの工夫は、生産現場にもほしいところだ。