実験では、当店のブレンド米が好成績を修めたと聞いて喜んでいます。提供したのは、1Kg400円と低価格で、定食店などに卸している米です。奈良産ヒノヒカリをベースに、香川産ヒノヒカリを加えることで味に幅を出し、佐賀産天使の詩でつや、コシ、歯ごたえをプラスしました。
価格を抑えるため、新潟産コシヒカリのような高価な米は使っていません。しかし、上記3銘柄の比率が適切だったため、味、食感、つやなどのバランスが良く、高得点につながったのでしょう。このように、米は組み合わせ次第で有名ブランドのものより安く、かつ美味しいものを作ることができます。
これまで、ブレンド米というと「粗悪品を混ぜた米」という悪い印象がありました。しかし、私が目指しているのは、複数の銘柄を組み合わせることで個々の欠点を補い、単一銘柄では出せない深い味わいを持つ米を作ることです。
米の美味しさは、味、歯ざわり、粘り、つやなど複数の要因が複雑に混ざり合って感じられるもの。これらの条件をすべて満たしている米ならば、ブレンドする必要はありません。
しかし、非常に人気の高い魚沼産コシヒカリのような有名ブランドの米でも、天候が悪い年に作られたり、生産者の技術が低い場合には、美味しさを形作る要素の一部が欠け、消費者の評価が低くなることもあります。
そんな時、欠けた要素を補う長所を持つ米を混ぜることで、味は向上します。例えば、甘みやつやがない米でも、ほかの種類の米を加えることで、甘みを引き出したり、つやを加えたりして、驚くほど美味しくすることができます。これがブレンドの妙なのです。
当店では、一般消費者向けに7種、飲食店用には各店の要望に沿ってブレンドした米を販売しています。業務用の場合、業態や提供する料理によって最適な組み合わせは様々。下表はほんの一例です。
各店ごとに決めた価格と風味は一定ですが、混ぜ合わせる銘柄や比率は、作付け年などによって変えています。同じ銘柄でもその時々で出来が違うので、同じ組み合わせ、割合で混ぜ合わせても、同じ味に仕上がるとは限らないためです。
このように、決まった方程式がないのがブレンドの難しさ。組み合わせの内容は、長年の間に培ってきた勘に頼るしかありません。しかし、同時に米穀店の腕の見せどころでもあります。
飲食店のみなさんが自店に合った美味しい米を仕入れるには、米穀店とコミュニケーションを密にとることです。そして、店の業態、客単価、どういう米が欲しいのか、希望の価格などを細かく伝えてください。
例えば居酒屋なら「夜の営業で残った白飯を翌日のランチでも使いたい。だから、時間が経っても美味しくて、黄色くならない米が欲しい」とか、寿司店なら「酢と相性が良く、握ったときに程よくまとまる感触が大事」というように要望を具体的に伝えましょう。
「新潟産コシヒカリを下さい」というように、産地や品種を指定する注文方法はお勧めできません。ほかの産地、品種のほうが、もっと美味しくて安い場合もあるからです。
また、今回の実験からも分かるように、調理法によって「ベストの銘柄」は異なります。例えば宮城産ひとめぼれは、コシヒカリよりあっさりした味で粒にハリがあるので、チャーハンのようにパラッとした食感を出したい料理に向きます。
まずは、米穀店とよく話し合って意見交換することから。要望にきめ細かく対応してくれる店を選んで美味しい米を仕入れましょう。
◆業種別ブレンド例◆ | ||
和食店 | コシヒカリ
ヒノヒカリ |
粘り、かみ応え、風味のあるコシヒカリをメインにし、コシヒカリ系統のヒノヒカリを加える。同系統なので相性が良い。ヒノヒカリは粘りが強めで、弾力があり、コシヒカリより安価なので価格を抑えられる |
寿司店 | 長野県産 コシヒカリ きらら397 |
コシヒカリは粘りがあるため、本来は寿司飯には向かない。しかし、長野県産の硬めのコシヒカリに、近年品質の向上している北海道米きらら397を加えると寿司飯にぴったりのブレンドになる |
定食店 | ヒノヒカリ
天使の詩 |
コシヒカリ系統で安価なヒノヒカリに、天使の詩でつや、コシ、歯ごたえを加える。売価約800円程度の定食のご飯として提供することができる |
カレー店 | ヒノヒカリ
あやひめ |
コシヒカリ系統で安価なヒノヒカリに、粘りのある低アミロース米の中で安価なあやひめを加える。低アミロース米はピカピカと美しく光るので、カレーと一緒に提供するとインパクトがあり、美味しそうに見える |
<<特別編『ブランド米は本当に美味しい?』を読む