オフィス街では午前十一時過ぎごろから歩道のあちこちにパラソルの花が開く。その下で安い弁当が売られるのだ。また、そこかしこにあるコンビニエンスストアでは、おにぎりや趣向を凝らした弁当が並べられる。安い牛丼やハンバーガーもライバルである。
それでも米の納入量がさほど減っていないのにと聞くと、価格の安いのしか売れなく、今までは七百円以上のデラックス弁当が売れ筋だったのに、今では四百円以下の弁当しか売れないと言う。売り上げ金額が以前の半分くらいに落ち込み、家賃や人件費を引くとオーナーの給料も出ないという。繁盛している居酒屋があった。昼時はご飯をメーンにした定食メニューを出し、当店の納入量も多かった。若者受けするような派手なやり方で、夕方になると千円引きのサービスちらしを駅の出入り口付近で配る。オープン時は大繁盛だったが、近くに同じような店ができると、お互いが値引き、サービス合戦を繰り広げ、その店は倒産してしまった。米代もまだもらっていない。
夫婦二人と昼時はパートタイマー一人で、ニコニコやっている定食屋がある。値段は高くもなく、安くもない。米を持っていくといつもニコニコしていて、もちろん米も上質のものを使っている。昼時、いつもの客がいつものように、つまようじなどを口にくわえて出てくる。気持ちの上で、当店の上得意の定食屋である。安売りは誰でもできる。だが、経営するのはたやすくない。